今週のお題「2010夏の課題図書」『新版ごみから地球を考える』

新版 ごみから地球を考える (岩波ジュニア新書)

新版 ごみから地球を考える (岩波ジュニア新書)

目次
はじめに
プロローグ―宇宙ごみ戦争
第1章 ごみから地球環境を考える
第2章 ごみから社会・経済を考える
第3章 ごみ行政で地球を救えるか
第4章 リサイクル産業で地球を救えるか
第5章 「ごみゼロ」の思想
第6章 地球を救う政治と技術
エピローグ―ベジタリアンの逆襲

 ごみについてわかりやすく書かれた本で、ジュニア向けながら内容は濃いです。この本はタイトル通り古くから人気があった本を新版にしたものなで、真新しいことをたくさん紹介した本ではなく、ある程度知られていることを丁寧に説明しています。ジュニア向けには社会問題そのものの理解が得られるのでしょうけど、大人として注目したいのが「考える」ということについての丁寧さです。
 「考える」という書き言葉は、日常的によく使われるものです。自分が「考える」という言葉を、単に文末につけただけで、実は「考える」という行動を停止していないか、というのがちょっと気になりました。この本では「考える」ということがとても丁寧に扱われています。たとえば、物理の基本について踏まえていることを、以下のように説明しています。

…説明に使う自然法則は「質量保存の法則」「万有引力の法則」「熱力学の第二法則(エントロピー増大則)(P.22)
…必要なエネルギーを取り出せば同時に必ず「いらないエネルギー」が発生し、これを系の外に捨てなければ必要なエネルギーを取り出せない、というものです。ここでいらないエネルギー(これは「エントロピー」という量で定義されています)をいらない物質(「ごみ」)、必要な「エネルギー」を「必要なもの(物質)」と置き換えると、「必要なものを手に入れようとすると必ずごみが出る。ごみを出さないで必要なものを手に入れることはできない」ということになります。(P.24)

 物理だけでなく、推理の方法として帰納法が使われている点や、データを紹介して定量的な評価を行ったり、見やすい図解を用いてプレゼンテーションしたりしている点など、実に丁寧につくられています。そして、政治や産業というものがどのように行われているかを示し、そのなかで人が納得できる思想を導き、政治や産業に対して現実的な提案を導いています。日常的な業務のプレゼンではあまり表面に出ないようなことまでわかるので、「考える」ことの奥深さについて感銘を受けました。
 理工系専門書ではなくジュニア向け新書なので、登場する数学にしても四則演算で理解できるようなレベルとなっており、ひとつひとつの内容は簡単に理解できます。ものを「考える」ということは高度な専門知識や経験のみによって導かれるわけではありません。いま自分に知識や経験がないから新しいことが考えられない、と思い込んで立ち止まってしまうような人がいるならば、勇気を得られるかもしれません。
 大きな問題を解決する成果とは、そんな個人の「考える」という行為によって産み出されます。

…これまでなかったものを形にしてきたのです。それはだれがやったのでしょうか。会社という組織でしょうか。そうではありません。○○さんと特定できる個人の頭のなかにひらめいた、気づき、思いつきがスタートです。個人と個人の相互作用として組織があるのです。(P.204)

 ですから、組織において個人をごみのように扱うとしたら、形ある成果を出せなくなって、組織は存在意義を失うのだと考えます。組織として達成する目的を守り個人の生きる尊厳を守るため、それを阻害する問題が目の前にあるとしたら、無視せずに向き合いたいものです。それが社会と人同士に対する義理だと考えます。