数と時間と論理が行き届いた言語世界―『日本人の英語』

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)

 論文や大学院入試にて、英文を扱う機会がありました。高校では重点的にやらない分野ですし、大学以降はあまりまじめに勉強していなかったからです。大学受験問題にみられる選択や穴埋め式はそれなりにできましたが、英作文は苦手で、英語を書くときには苦労した思い出があります。この本を読んで、当時に悩んでいたことがいろいろと氷解しました。

 私のみてきたかぎりの日本人の英文のミスのなかで,意思伝達上大きな障害と思われるものを大別し,重要なものから順(descending order of severity)に取り上げてみると,次のようになる.
1.冠詞と数.a,the,複数,単数など意識の問題.
2.前置詞句.
3.Tence.文法の「時制」.
4.関係代名詞,that,whichなど.
5.受動態.
6.論理関係を表す言葉.
(P.7-8を参考に抜粋)

 かつて、先生に英文を添削していただいた時のことを思うと、上記で挙げられた点に関する指摘が多かったように思いました。ですから、英文をうまく書けるようになるためには、やはりこれらの点が重要なのでしょう。この本では、上記の重要なものから順番に解説が進んでゆきます。最初の方に登場した解説の「 a は名刺につくアクセサリーではない(P.10)」などは、僕のように英語が苦手な者にとって、新鮮な印象を受けました。英語を「日本語で考えながらつくる(P.4)」という意識がはたらきく場合に、不自然な英語になりがちなのだと思います。日本語の思考に慣れ親しんでいる僕としては、数や時制や論理という切り口を重視してものごとを考えるということそれ自体が新鮮な刺激でした。
 現在の日本で働いていると、様々な国の人と接する機会がありました。また、日本のなかでも、村落共同体的なつながりを重視して権力に対して従順な地域がある一方で、権力を倒すような維新に向けて一丸となるような気質の地域もあって、人びとの意識というものはそれぞれ違います。交通や通信という物理的技術が発達するほど、違う気質や論理をもつ人同士の交流は、多くなるものと思われます。すなわち今後の社会では、いろいろな国や言語を背負った人と接する機会が増えるため、違う立場にある人の意識を理解できないと、考え方の行き違いがおこる場面が増えるはずです。
 人との関わりにおいて、年齢や性別や気質の違いなどにいちいち目をつけて、異質なものを排除するようなやり方は、この社会状況ではうまくいきません。ですから、単語をや言い回しを覚えるだけでなく、言語―ことばのあやーの背景にある論理構造を理解することが重要です。これは英語に限らず必要なことですが、英語に接することは考えの違いを体験してみるという意味において、ひとつの有用な手段だと思いました。