基本のキホン―『理科系の作文技術』

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

 学生時代に図書館で読んだ記憶がります.レポートを書き始めた頃でうまくいかず悩んでいましたが,この本を参考にしながらひとつづつ完成させてきた思い出があります.理科系に限らず,論文や仕事の文書について,重要なことがたくさん書かれています.
 いま改めてこの本を読むと,仕事で同僚が文書をどのように書けばよいか悩んでいたときのことを思い出します.主に若手の人に多かったケースで,文書について誰が読むものかということ意識していない人の場合,あまり重要でないことに悩んで、多くの時間を費やしてしまうということが多かったです.
 社内の報告書などであれば,誰が読むものか特定するのは簡単です.経営者や管理職にとって重要な情報が何か,生産部門や営業部門の担当者レベルが必要とする情報は何か,そこを理解しておけば時間の浪費を回避できます.論文や商品の説明書などのように,ある程度不特定多数の人が読むことを想定したものもあります.この場合は,社内向けのように特定の個人まで思い浮かべることは不可能ですが,読む相手が何を求めているかを考えてみることは可能ですし,やはりそこが重要です.

 これらは自明のことかもしれないが,初心の執筆者にとっては,自分の書こうとする文書の役割を確認することが第一の前提である.(P.16)

 自明なこととしているためか,この本であまり多くは触れてはいないのですが,この点を意識しているかどうかが,仕事の文章をつくるうえで重要です.
 文章作成のテクニックのうえで「重点先行主義(P.31)」「スケッチ・ノート法(P.54)」「トピック・センテンス(P.64)」などの解説は,基本的な考え方として,どんな場面でも役に立つものだと感じます.本の後半では,個別の文章例についての解説や,手紙や説明書などの例を紹介など,より具体的な記述になっています.つまり,自明なほどの基本を示した後で,具体例を挙げるという本の流れになっており,この本自体が「重点先行主義」で書かれていて,初心の執筆者にも理解できる形になっていて,気持ちよく読めます.日常的な仕事の文書でも,こうして書くと気持ちがよいと,何度も感じました.
 今の自分を振り返ってみても,個別のテクニックについてうまく出来ていない場合もあると感じました.文章のルールについて,少し無頓着だったと気づきました.こうして,昔に読んだ本を改めて読み直すことで,気づくこともあるというのは新鮮な発見がありました.
 この本は内容が古いと感じる箇所もあります.たとえば,横書きの文章に読点〈、〉句読点〈。〉のかわりにカンマ〈,〉ピリオド〈.〉を使うルールは,いまでは無視して良いと思います(この記事ではあえてそのルールで書いてみましたが,少し違和感がありますね).PC普及前の時代に書かれた本のため,ワードを使った文書作成やパワーポイントを使ったスライド作成にはそぐわない記述もありますが,それでも内容の9割は十分に役立つと思います.時代を超えて読み継がれるべき名著と思いました.