富大卒展その2 クライテリア

 今日は石上純也さんと野老朝雄さんのトークショーでした。それぞれ、脚注リンクにあるような作品の解説と、これまで仕事をしてきた上で考えたことの紹介でした。

石上純也さんトークの感想

 石上純也さんのトーク冒頭にて、“モダニズムの時代は社会全体でみんなが共有できる目的というものがあったけど、いまはそういうものが実感しづらくなっている。そのなかで、自分にとってあたらしいもの、まだ見たことがないものを追求していきたい”という感じのお話から入りました。
 『建築家不要論ではなく、建築家以外必要論 - FDmountwill_millsの日記』にて、社会環境の変化と建築の仕事について書いたことがあります。これは、僕の自説とかでなくて、誰もが必ず実感することで、誰もが似たようなことを思っているだろうと感じていたのですが、こうして今回の石上さんや、先週のリノベシンポでの松村秀一先生など、いろいろなところで似たようなことを聞く機会があって、やはりそれが現在の共通認識だと実感しました。
 作品紹介のひとつ、厚さ3mmで10,000mmの長さのテーブル*1。あらかじめ曲がったものをテーブルとして設置すると、自重で水平になるという仕組みになっています。とても薄いため、波打つように天板が動いているところが、動画で見れたのはインパクトがありました。
 こういったことを、どういう発想で進めているのか、という質問が会場からありました。最初、構造家の人にテーブルについて相談すると「そんなことはできない」というふうにいわれたそうです。それでも、石上さんは「できる」と確信を抱いていて、構造家の人に「できないのはなぜか」という問いかけをして、「テーブル天板の上下面で表面積が変化することによる影響があって水平をだすのが難しい。」という答えに対し、「スリットを入れるて、表面積変化の影響を小さくする」という工夫を考えたそうです。
 僕も、前例のない形の製品をつくるときには、構造などの工夫については苦労していました。できるはずなのにうまくいかない、という場面に出会ったとき、簡単にあきらめてはいけませんよね。コスト削減と強度アップなどの価値向上を同時にできたときの達成感や、関わる人たちの喜ぶ顔というのは快感を覚えるものです。
 様々なプロジェクトの紹介がありましたが、“あたらしいものをつくりたい”ということは全くぶれずに貫かれていると感じました。それが、石上さんのなかで、仕事を進行していくうえでの基準―クライテリアとなっているのだと思います。共感しながら聞いていました
 現代では、“工業化された材料をつかって効率よく整った形の建物をたくさん建てることができればよい。”という、モダニズム的なクライテリアが、人々の間で共有しづらいものだと思います。仕事で“常識的に言われたとおりにやれ”と言われて、その通り実行しても、人がはっきり納得するものができません。その意味で、何らかのクライテリアを自分なりに設定して、問いかけを重ねていく必要があるのだと思います。

野老朝雄さんトークの感想

 “クライテリア”という言葉は、野老朝雄さんのトークで出てきた言葉です。野老朝雄さんのグラフィックデザインにおいて、どのような意味があって形を決めているのか、クライテリアを明らかにすることを重視している、という意味と理解しました。『TOKOLO.com』に出てくる図形ですが、コンパスと定規で書けるものになっているとのこと。そうしてできた柄は、10の447乗のパターンをつくることができる代表作。
 建築設計事務所みかんぐみのロゴをつくるときに考えたときに設定したことも、明確なクライテリア。たとえ原本のグラフィックが紛失したとしても、誰かがクライテリアに沿って描けば同じものができるほどの、ルールをはっきり決めているとのこと。明確なクライテリアがあるから、バリエーションがつくりやすいグラフィックになっていて、それがクライアントにとってのメリットにもなっています。バリエーションが最大限に実現したのが前述の10の447乗だと思います。他にも、地図のミウラ折り*2のように展開する菱形のアイデア。モワレ‐干渉縞*3を利用したアイデアなどが紹介されました。
 野老朝雄さんの発想も、「できる」という思いが先になんとなくあって、そこから技術的に可能かどうか進めていくとのことでした。本当にできないこと、絶対的な制約条件というのは何にでもあると思いますが、それを乗り越えるための試行錯誤をする。当たり前かもしれませんが、大切だと思いました。