庭と街の発想―『虫眼とアニ眼』

虫眼とアニ眼 (新潮文庫)

虫眼とアニ眼 (新潮文庫)

 宮崎駿さんによる、最初のページのイラストがいい感じ。庭があって、植物があって、優しい印象の柵があって、屋根付きの駐車場がある。そんな街の絵です。これをそのままの形で実現することは難しいとしても、実現可能でつくってみたくなるところは多いです。自然を感じさせる地形や植物、人々の生活などは子供にとって未知のわくわくする世界です。魔女が出てくるかもしれないし、トトロのような生き物がいるかもしれない。そもそも、生き物の世界は謎に満ちていて、いつまでも飽きないものです。
 「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」などの話題が出ていて、もともとの出版年月を確認すると平成14年とのことです。時代は少し隔たっているのですが、現代の都市や生活をめぐる議論について、最近のコンパクトシティや高齢社会や教育問題などと、十分に繋がっている部分を感じます。
 宮崎さんにしても養老さんにしても、この分野の専門家というわけではありませんが、独特で強力な力をもつ「眼」で、本質的なところを見抜いていたのでしょう。実行するには、金融や経済の論理や、安全性などの論理として、専門家が必要です。どんなに頭のいい鋭い人であっても、世の中の全部に対して専門的に精通することはできなくても、何かひとつ極めて見ることはできます。それを尊重し合ったうえで、何かの話し合いをはじめると発展的な未来が見えてくると感じました。