夏の成長と未知なるものを描いた物語たち
夏という場面は、子供の成長を描いた物語において、いい背景となります。
かけがえのない人同士が共有する体験
- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/08/28
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3人の子供はそれぞれ違った性格のため、考えていることが他の相手に伝わりにくい場面があります。また、後半2編では大人の登場人物が重要な役割を果たすのですが、大人の登場人物が考えることも、子供たちには理解ができないものです。そもそも、人はお互いに考えていることを全て理解することはできないものです。年代の違いによって体験して考えることにも変化が出てきます。こうしたすれ違いやその克服を経て、3人が体験したことは、それぞれがかけがえのない思い出となるのでしょう。
固有の人たちを俯瞰する視点
- 作者: 中沢けい
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/12/25
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ツンデレ女子
- 作者: 重松清
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/06/28
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マコトはクラスで番長になりたいと宣言し、それから様々な出来事がおこります。登場人物たちは、わかりやすくキャラクター化された印象です。たとえば、マコトは普段はツンツンとしたところがありましたが、バレンタインデーにこんな事をいいます。
「ツヨシのおばさんに教えてもらったの、手作りなんだからね、すっごく時間がかかって大変だったからねっ」
マコトは怒ったように言って、「じゃあねっ」と外に駆け出して、止めてあった一輪車に乗って―コケた。(P.215-216)
ツンデレですねw
そんなかわいい登場人物たちは、それぞれが個性的なしぐさや話し方を持っていて、それぞれの世界の見方があります。人がもつ個性を大切に扱うことは、大人として人の尊厳を尊重することにも繋がる部分があるのではないでしょうか。じっさいの世の中にも、いろんな性格の人がいます、同じ時間をすごした仲間のなかで、それぞれかけがえのない思い出になっていくのでしょう。
未知なる世界を知る魔女―おばあちゃん
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
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大人の人生経験からくる言葉は、子供の成長にとって影響をおよぼすものです。大人の場合でも、父母の年代と祖父母の年代とでは、それぞれ違った世界が見えてきます。死んだ人の思い出も、人の心に残って影響を及ぼしています。
西の魔女が見る世界は、単調なようでいて活き活きとしたものに感じられます。規則正しい生活など、人として見習いたくなるものがあります。歳を重ねたとき、若い人からそう思われるようになりたいと思いました。
未知な世界の扉があるとして
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
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たとえば「僕はジャングルに住みたい」という短編は、卒業を控えた小学生がふとジャングルに住みたいと夢想するお話です。日本に生活する人にとって、ジャングルというのは未知の世界です。しかし冷静に考えてみると、小学生が中学生になること自体が未知なる世界への移行です。人は未知なる世界があると心が揺れ動くもので、小学生にとっては中学校もジャングルも似たようなものかもしれません。
ややガラの悪い主人公が、大人に成長する物語
- 作者: 佐藤多佳子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/10/28
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物語は全体的に予想のつかない方向に進んでいきます。最初のほうでは、二人ともやや問題児な一面があり、元気はつらつとしたタイプではありません。前半において、二人の思考を綴る言葉はガラの悪い印象ですが、後半で別人のように思慮深くなります。
著者:佐藤多佳子さんの解説によると、もともとは大学時代に書いていた小説を10年後に完成させたそうです。前半と後半で、文体ががらりと変化するのは著者の文体が10年という時間を経たことがそのまま反映されているのかもしれません。これは主人公が別人のように成長してゆく物語にとって、いい演出として作用したように思います。
人が別人のように変わるという体験は、それが進行している最中には自分ではわからないもので、後で振り返ったときにはじめて意識できると思います。それをわざとらしくない形で表現しているのが、この小説の特徴です。
未知な世界と関わる
大人になると、自分は何でも知っているというふうに思い込みがちかもしれません。移り変わりの早い世の中は、大人にとっても未知なものです。その状況から逃げていてばかりではより困難な状況に追い込まれていきますが、勇気を出せなくなる気持ちもわかります。しかしながら、人は大人になるまでに、勇気をもって未知な世界へ飛び込んだ体験が何かしらあるはずです。そんな気持ちを忘れたくないために、多くの小説において成長や未知な世界が描かれるのだと感じました。