あきらめない、チーズどころの騒ぎではない大冒険−『川の光』
- 作者: 松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 単行本
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平和に暮らしていたクマネズミのタータとお父さんと弟のチッチの3匹は、川の工事によりそれまでの住居を捨てて上流へと移動します。途中に様々な危険があり、なかなか安住できる場所にはたどり着けません。道中でほかの様々な動物や人間たちと出会います。それぞれの目を通した川の周りの風景や社会の姿があり、人間も動物もそれぞれが自然のなかで生きる存在であることを感じさせます。
自分たちが生きている場所を維持することは大事です。ねずみのタータたちの住居がなくなってしまうこと、いたちがエサを獲得できないこと。敵対するドブネズミたちが自分たちの軍隊的な組織を維持できなくなること。人間にとっては、人がうまく生きるための方法として川の工事をすることもあれば、ねずみの駆除をすることもあります。どれも、それぞれが生きるための目的に沿ったものであり、単に悪いことだとを決めつけることはできません。人間も含めた動物たちは、便益を異にする者の存在も踏まえたうえで、それぞれの生き方を決定してゆく存在です。
タータたちは、当初は自分たちの生きる場所への想いについて無自覚だったようですが、次第に「川に生きるねずみ」というポリシーを持つ存在として目覚めていきます。自分たちにとって居心地がよく満足出来る場所は何か、自分たちにとって決して譲れないものがあるとすれば何か、一貫した自分のポリシーを意識することが、様々な立場の者が共生する上での力になると感じました。それが、自分のいる場所が突然なくなってしまうという危機に対し、乗り越える勇気を生み出したと考えます。
人間の社会も移り変わるものなので、いままで食べていたチーズがなくなることもあれば、家ごとなくなってしまう場合があるのかもしれません。そんな不確実な世界のなかで、どうしても無くしたくないものが、必ず誰にもあると思います。お互いにそれを尊重し、自分の平和な場所を守る努力を忘れたくないものです。
*1: 何年間同じ思考に留まるつもりですか-【チーズはどこに消えた?】 - FDmountwill_millsの日記 http://d.hatena.ne.jp/FDmountwill_mills/20100603/1275518043