付加価値のマネジメントを農業へ投入−『いのちをはぐくむ食と農』

いのちをはぐくむ農と食 (岩波ジュニア新書)

いのちをはぐくむ農と食 (岩波ジュニア新書)

 自然の恵み、人の気持ち、日々の豊かな生活を支えるからだ。食と農に関わると、それらをまとめて感じることができるのかもしれません。
 農業をしている人は、昔からの規則正しい生活を重んじ、豊かな自然や水田と長年向き合ってきた人たちです。そこには尊敬できる知恵や、暖かい思いやりなどが秘められています。だから、その人たちの生きざまを含めて、これからの社会に正しく伝えていくために、現在の移り変わる社会で持続可能なことは何かと、考えさせられました。
 僕は農業に携わっているわけではありませんが、この地域で豊かな気持ちで生活していくには何が必要か、それを考えれることは地域で人と接していくうえで必要で、それを踏まえて仕事や生活の判断をする場面も多くありました。
 農業を維持してきた昔のひとたちのはたらきのおかげで、安定した平和な社会が形成されてきたのだと考えます。地域社会のつながりや人同士のつながりも、そのなかで安定し、日々の生活やこころ情緒を安定させてきました。しかしながら、前世紀から今世紀にかけて工業や流通や通信が発展し、グローバル経済が成立することによって社会のあり方が大幅に変化し、この国の農業が危機に瀕しているとしたら、この豊かな農業を維持するため、今の時代に生きる人たちが新しいアイデアを投入することによって対処しなければならないのだと考えます。
 日本の村落共同体は、年長者の意見に賛同することがよしとされており、それで安定することができたのだと思います。農業はどんな努力をしても、1年に1サイクルしか収穫できないため、農業をうまく運営するための知識と技術を得るためには、時間をかけた経験を積む必要があったからです。科学技術が発展し、グローバルな経済のもとではまた違った農業のあり方が考えられます。たとえば、付加価値を加えることも大事だと感じます。その例として大分県大山町の事例が紹介されています。

 いま、とても活発なのは「ハーブクッキーの魔女たち」です。この「魔女」たちは大山町の農家に嫁いできたお嫁さんたちです。農家の収入がとても多くなって、そのため農業の魅力を再認識した農家の後継者の若者がもどってきました。そしてその後継者たちと結婚した若い奥さんたちも、みんないい顔をしています。(P.34)

 クッキーの生産や流通は組織だって行われており、ここで生産されてハーブのブランド価値が向上しているそうです。加工する技術、流通する技術、そしてブランドを築く知恵が反映されて大山町の農業に付加価値が加わりました。

 日本の農業は、農産物をつくってそのまま売っています。小麦をつくったら、小麦で売る。米をつくったら、米で売る。しかし、そこから一歩踏み出して、農産物に付加価値をつけて売ると、まったく違う展開ができます。たとえば、農家が小麦を生産すると、その小麦をつかってうどんをつくり、これを売ったほうが利益は高まります。(P.44)

 流通や生産という産業が発展したことに対し、その恩恵を活かしていくことが可能になります。昔であれば、流通や生産を行う設備を所有し管理するのは難しいことであり、簡単に参入することができなかったのかもしれませんが、いまの社会ではそれが可能です。また、高校生や子供たちが地域の農業に参加することで、教育的な効果があることも書かれています。三重県相可高校の「まごの店」での事例では、接客などの経験を通して高校生が「相手の気持ちを考える」ことに気づいていったそうです。地産地消や食育を通して、子供たちが豊かな体験を積むことができます。
 いま農家ではたらいている人たちは、全員が安心して農業に関わっていける状態では無いと感じてきました。昔ながらの社会が変わっていくことに反発を感じ、お前たちは年長者の言うことを聞くだけでよく余計なことを言うな、という態度で周囲から煙たがられてしまう人もいました。だから、昔から農業をしてきた人には、自分価値ある存在であることを自覚できるよう、人間が生み出した社会と自然との良い関係を持続させて、その価値が伝わっていけたらいいなと考えます。

 日本人の悪いところは、一歩踏み出したら後ろを振り向かないで歩みつづけること。しかし、一度立ち止まって後ろを振り向いて、「ああ、まずかったな」とわかれば、そこの原点に帰ってそれを再考することが必要なのです。(P.169)

 社会が変わったことに対し、産業は規模を縮小するしかないという発想しかできない人もいます。そういう人の考え方までも変えようとするのは、難しいのかもしませんし、そこまでして人の考えに立ち入ろうとする事自体がおこがましいのかもしれません。だから、自分たちにできることをいま実行して発信し、少しづつでも自分たちの暮らすこの地域をよくするため、伝えていく活動をしたいと考えます。