「空気」の「世間」が表れる小中学校

きみの友だち (新潮文庫)

きみの友だち (新潮文庫)

 小中学校における友だち関係をテーマにした小説集です。形式は短編ですが、登場人物が重複していて全体でひとつのストーリーにもなっています。こういう事たしかにあるなあと思う場面が、誰でもいくつか見つかるのではないでしょうか。
 学校の友だちとの関係について、深刻な悩みとしてとらえている登場人物が多いです。僕はこういうことを、あまり深刻に考えなかったタイプだった思います。だから、自分自身に似ていると感じるのは恵美とブンの姉弟でした。
 この二人は友だち関係について、あまりじめじめとした悩みを持ちません。周囲のひとから見た場合、そこが特別に感じさせるようです。恵美以外の女子はグループを形成して行動する日常のなかで、ときどきそれに疲れてしまうというパターンが多いです。彼女たちから見て、恵美の行動は違和感を感じさせます。出来杉くんタイプの優等生であるブンの場合、劣等感を抱く同級生や、「生意気だからしめてやる」という行動に出るガラの悪い先輩が出現したりします。ブンは悪気にないのですが、そういう人たちの気持ちをすぐに理解できないようです。
 大人の世界にも、小中学校の友だち関係に似た悩みを抱いてしまう人がいるのかもしれません。自分に自信がないために年下に対して偉そうにふるまいたい人や、グループの派閥に悩んでしまう人たちは大人にもいます。その思いが日常の全てになったとしたら、たしかに息苦しいです。
 自分が熱中できる場所をひとつ見つけられたら、息苦しい悩みは和らぐのではないでしょうか。「誰かからこう言われる」と怖れてしまい、自分が本当に思う通りの行動ができないという思いは、後で振り返ってみると実に他愛のないことであることが多いです。だから、歳を重ねた後に小中学校時代の仲間と出会うと、不思議な感覚があるのでしょう。時間を置くと、なぜ悩んでいたのだろうという気持ちになってしまいます。そんな場面の描写もありました。
 小中学校であれば、ひとつの思い出として残るだけかもしれません。しかし、大人の世界―特に仕事関係―において、他愛のない悩みを振り切れずに行動したことによって、トラブルから損害が発生することもあるのではないでしょうか。たとえば、誰かがこう言うからこうする。みんながこうだからこうする。そのような考えに支配されて、気がつけば重要なことが何もできていない。馴れ合いは、職場の行動を沈滞化させる場合もあります。成長した大人であれば、そこはある程度振りきって考えたいものです。