『夏を拾いに』- 少年の日々の想い出

夏を拾いに (双葉文庫)

夏を拾いに (双葉文庫)

 スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』的な、少年の日々を綴った小説です。内容をシンプルに伝えるとするとするならば、そのひとことに尽きます。著者のあとがきにある言葉を借りれば、手垢のついたテーマかもしれませんが、こうした想い出は、人にとって生きる力を思い起こさせるものだなと、改めて納得するだけのものがありました。
 昭和時代の出来事は、現代と異なるものがいろいろとあります。小説の舞台である昭和46年では、子供はテレビなどに夢中なのに対し、現代の子供はニンテンドーDSや進学塾に時間を費やしています。昭和46年にも塾で勉強する子供がいて、小説のなかにも登場しているのですが、それは少数派でした。
 日々の生活のなかで、どんな年代の人であっても、それぞれ悩みを感じる出来事があると思います。小説の主人公のような、40代後半あたりの人も、もちろん悩みを抱えています。現代において、30年以上前と同じカタチで生活をすることはできません。その移り変わりについていけずに、ストレスを感じる場合もあるとは思います。
 子供の頃の様々な想い出というのは、時代や環境が変わってしまうからこそ、美しく思い出すことができるものかもしれません。だから、今の生活にきちんと向き合おうとする気持ちが湧いてくるのだと想います。
 小説を読むこと自体がひさしぶりだったのですが、僕もある程度歳をとったためか、子供に対してというより、40代後半の主人公に対して共感しながら読みました。そんな自分の想いに気づいたことが新鮮でした。