『グーグルのグリーン戦略』−レビューコンテスト

グーグルのグリーン戦略=グリーン・ニューディールからスマートグリッドまで=

グーグルのグリーン戦略=グリーン・ニューディールからスマートグリッドまで=

レビュープラス様より献本いただきました。いつもありがとうございます。

 本の概要については、著者の新井宏征様のブログに紹介があります。あわせてお読みいただけたら、理解しやすいと思います。(link:http://www.stylishidea.com/archives/1752)。

世界中の人が注目し直接意見を書き込む「ライブ」感

 今日、メディアで語られている環境・エネルギー問題は、公害などの実害がはっきり出て問題視されている状況と違い、その問題点を直接的なイメージで理解することが難しい面があると感じていました。例えば、工場からの排水で漁業や農業が打撃を受けたり、住民の健康が失われるなど、直接的に実害が理解できる内容がメディアで取り上げられているのを見れば、被害を受けた人にとって適切な対応が必要なことは明らかです。これに対し、被害を受けた人の顔がはっきり見えると限らないのが、現代の環境・エネルギー問題と感じます。ですから、世界中の人がこれに関心をもって解決に向けて取り組むためには、その問題意識を誰もが肌で感じられるようにすることが大事と考えます。
 この本のプロローグにて、2009年12月に開催された「第15回気候変動枠組条約締約国会議
COP15)」における、グーグルブログ上での取り組みが紹介されています。世界中の人々がこの会議に関心を寄せていることが、ツイッターハッシュタグ検索結果からも伝わってきます(link:http://search.twitter.com/search?q=cop15 )。本のあとがきに、そのハッシュタグの様子について著者が感銘を受けたとあります。

本文でも紹介したtwitterで、#COP15というハッシュタグのついたつぶやきがどんどんと更新されていくのを見ていたのです。twitterにずっと張り付いて見ているわけにはいかないので、完全にリアルタイムで話題を追うことはできませんでしたが、日本に居ながらCOP15を「ライブ」で感じることができた体験でした。(P.215)

 余談ですが、twitterは見ていてとても面白いので、僕もよく投稿しています。このブログの右側サイドバーにそれを引用しています。
 この「ライブ」感によって人々に訴求する力を発揮できることが、インターネット―特にウェブ2.0―の力と考えます。そのインターネットで強い影響力をもつ企業がグーグルであり、グーグルの取り組みには注目に値するということが、この本の見所です。

ビジュアライゼーションと原典データ参照による説得力

 各種インターネット技術を通してビジュアライゼーション―可視化―されたデータもまた、人々に訴求する力をもつものだと感じました。
 グーグルのオフィシャルブログで、グーグルマップやyoutube動画などのツールを用いて環境問題の要点をわかりやすく伝えていることが、紹介されています。(link:Official Google Blog: Climate tools for Copenhagen and beyond,link:http://www.google.com/landing/cop15/showyourvote.html)。グーグルだけでなく、日本の環境省による、ヴィジュアライゼーションされた資料の紹介や、著者の考察もあります。(link:環境省_環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書)。
 インターネットのない時代は、政府やシンクタンクが用意した資料を見るには手間がかかりました。ですから、こうした一次的な資料を閲覧する機会のない人も多かったかもしれませんが、今日ではこうしてそれを自由に閲覧できて便利です。
 「第3章グーグルの「グリーンエネルギー2030」の提案」(link:http://knol.google.com/k/clean-energy-2030#)の翻訳は見応えがあります。インターネット資料のよいところは、原典・一次情報に近いデータの参照が容易なことです。「グリーンエネルギー2030」を見て「グーグルさんはそう言うけど、どうしてそう言えるの?」という人がいた場合、政府や研究機関などが発表したデータを参照―「http://knol.google.com/k/clean-energy-2030#」内でリンクをクリック―することで、権威ある組織が集めたデータを元に、適切な提案がなされているかどうかを確認できます。
 グーグル副社長のマリッサ・メイヤー*1 *2による"Don't politec, use data."(政治的になるな、データを使え)という言葉は、金言として有名です。「グリーンエネルギー2030」はこうしたトップの方針が反映されていると感じました。

机上の空論でなく、リアルにクリーンエネルギー実行しているグーグル

 グーグルは一大企業とはいえ歴史も浅く、エネルギーを直接扱ってきた老舗企業や政府とは、少し立場が違うと思います。そこで「何でグーグルさんにエネルギー問題のことがわかるの?」という疑念が浮かび上がる場合もあると思われます。ですから、ウェブ2.0の双方向性・ヴィジュアライゼーション・リンク参照といった、インターネットの強みを生かした形で、提案に説得力をもたせようとしているのだと感じました。
 そしてグーグルは、クリーンエネルギーの運用に直接に役立つ活動も実行しています。
 それが第4章で紹介されたカーボン・フットプリント*3、第5章で紹介されたデータセンターの効率的運用*4、第6章で紹介されたグリーン社員プログラム*5です。
 言うことが立派でも、行動が伴わない人があまり信用されません。人々が企業に抱く想いも同様と考えます。その意味での説得力としても、これらの活動は重要に思われます。

私事ですが、最後に僕自身のアクションプランとして

 僕は最近、社会の様々な状況を踏まえて、仕事のうえでちょっとした提案をまとめていました。その活動を継続していくための勇気を、この本からもらったと感じています。
 グーグルはすごいスケールのでかいことをやっている会社で自分と関係なさそう、という気持ちも最初はあったのですが、冷静に考えれば、もともと老舗エネルギー企業や政府が扱うような、エネルギー問題についての《政治的》な立場は、本来グーグルはそれほど強くなかったはずです。ですから、世界が幸せになり、それを通じて企業として社会貢献を実現するための行動として、誰にでもできることがあるかもしれない、と感じました。また、データの扱い方や見せ方、説得力のあるプレゼンや行動指針は具体的に参考になるものでした。