極上の、決定的な一撃―なぜ、数字に〈よって〉考えるやり方は賢明で新しいのか―

その数学が戦略を決める

その数学が戦略を決める

データ野球

 この本の内容をひとことで要約すると「数字で表されるデータによって様々なことが決定されるようになりますよ」というものです。本に登場した具体例をひとつ引用します。

そこでジェイムスは、打者が出塁にどれだけ貢献したかを示す、新しい方程式を作り出した。
貢献出走塁=(ヒット数+四球数)×総塁数÷(死球以外の打席数+四球数)
(P.17)

 この式で資料を作ってみました。

 貢献出走塁でみると、巨人の打撃は強そうですね。 

 シートの中身を少々解説します。投手成績に関しては、式が本に載っていなかったので<被>貢献出走塁という観点から、僕が考えた式を入れています。
(安打+四球+死球+ボーク)×(安打+4×本塁打)÷(回数×3+安打+四球+死球
 〈被〉貢献出走塁は、数字が小さいほどよい成績となります。<死球>は打者の式にみられる死球とは若干扱いを変えています。死球は投手の実力を十分に反映する数値と考えたからです。また、本来ならこの式に〈被・総塁数〉を使う必要があるとは思いますが、このデータは公開されていないので二塁打三塁打を単打と同じ扱いにしました。
 「貢献出走塁」はプロ野球のスカウトが選手を獲得するときに活用できたそうです。野球のスカウトがその経験からくるセンスによって判断するよりも、数字を使う方がより確実に選手の実力を見抜けるそうです。本に紹介されたエピソードでは、大学で活躍していたある選手がかなり太っていたため、スカウトは獲得に難色を示したそうですが、<四球が多い>―貢献出走塁向上に効く数値―に注目して獲得したら、見事に活躍したそうです。こうして、プロ野球チーム:オークランド・アスレチックスは好成績を上げました。

「絶対計算」は、専門家を圧倒する。(表紙カバーより引用)

 この本で解説している事例は、野球だけでなくワイン・政治・医療・映画など幅広いです。計算がいかに有効に機能しているかを示す一方で、計算の威力によってそれまで専門家が担ってきた仕事の一部(ときには大部分)が削減されてしまうことに対し、複雑な反応があることについても解説しています。こうして計算の活用が発展する背景にあるのは、データのやりとりをしたり計算を実行したりするためにかかるコスト・労力が、コンピュータやネットの発達によって大幅に軽減されたことがあります。僕の体験上、コンピュータによるデータの扱いがうまくできる人は、地位や立場を超えて実質的に仕事の主導権を左右する存在です。上司がデータをうまく活用できないのであれば、うまく活用できる人の意見に頼らざるを得ません。
 僕は仕事で、商品原価・利益・スケジュール・部品や部材の納まりなど、常に数字と格闘していました。〈センス〉で判断を下す〈専門家ぶった〉行動は、絶対にするまいと心に誓いました。それと、データを入力して分析したり式を設定したりする作業は、僕にとって楽しいものなのです。だから、気になるデータがあればプロ野球の成績でも何でも計算してみたくなります。以前にブログに書いた、<はてブ数>から面白い本を見分ける―今読むべき本リストを集合知で作成してみた - FDmountwill_millsの日記―もその一環です。大学時代の論文―1)論文一覧(国立情報学研究所CiNii検索結果) - FDmountwill_millsの日記―もデータの分析でしたし、グーグル副社長が言った「データを使え」という言葉にも共感します―データを使え―希望ある未来への土台として - FDmountwill_millsの日記。また、方程式の本も大好きです―利益の方程式およびHの方程式 - FDmountwill_millsの日記

「絶対計算屋」に対するイメージ

 この本では、テレビドラマ等に出てくる〈計算が得意な人〉がかっこ悪いイメージとして描かれやすいことについて、軽く触れている箇所があります。僕が思いついたなかで例を挙げると、映画プリティ・ウーマンリチャード・ギアは会社を数字で判断して処分する仕事をしていて、〈「心の触れ合い〉を通して行動が変化しました。物語に登場する「かっこいいひと」が<センス>や<思いつき>などで難局を乗り切るのはよくあるパターンです。しかしながら、近年はそんな風潮も少し変わってきているのだと思います。ドラマ「ガリレオ」の科学者は二枚目の福山雅治が演じています。鋭い計算を元に事件を解決する、刑事ドラマ「相棒」の杉下右京刑事(水谷豊)だって二枚目ですから。
 余談ですが、僕もできればかっこよく見られたいという気持ちがあるかもしれません。FDmountwill_millsの名前の由来である少し高価なネクタイ*1とか、エルメスの香水*2とか、いろいろ金銭的にも人より多めに投入しています。学生時代から以前には、こういうところに大したこだわりはなかったのですが、社会人になってから扱う業務のイメージに関するちょっとした不満がきっかけでだいぶ変化しました。自分で言うのもなんですけど(笑)かっこいいイメージと共にデータや計算を使っていきたいと思っています。