『堤未果責任編集 オバマ大統領就任から1年 「貧困大国」の真実』など-COURRiER Japon MAR. 2010 Vol.065

 レビュープラス 様より献本いただきました。感謝いたします。

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2010年 03月号 [雑誌]

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2010年 03月号 [雑誌]

“保険料の高騰によって、貧しい人々は健康に生きる権利さえ奪われていく”(P.36)

 09年はとくに不況で失業し、保険に入れなくなった人や、保険に入っていながら適切な治療を受けられない人々が殺到。(P.36)

 人々は入場券という名の“幸運の切符”を手に入れるために、駐車場に寝泊りしたり、路上で毛布に包まって徹夜で並んだりして、平均13時間もの待ち時間に耐えた。ただ、健康を取り戻したいという一心で。(P.36)

 ふだん競技場やコンサート会場として使われる「グレート・ウエスタン・フォーラム」は、RAMによる医療サービスのために1週間貸し切られた。この束の間の巨大診察室には約8000人が殺到したが、実際に入場できたのは6344人だった。(P.38)

 衝撃的な写真が数ページに渡って掲載されていました。ボランティア団体リモート・エリア・メディカル(Remote Area Medical | Remote Area Medical)が行った、貧困層を対象に無料で診察を提供する「フリー医療フォーラム」の写真。実際にどんな光景が繰り広げられたか、興味を持たれた方は、ぜひ雑誌でも見ていただきたいです。
参考動画:

医療改革の推移

 2003年時点でオバマ大統領が支持していた「単一支払い皆保険制度」、すなわち日本人にはおなじみの「国民皆保険」について、その制度導入が議論から排除され、民間保険と政府の公的保険を選択する「公的オプション」に変わってしまいました。

―民間保険と公的保険が競合するから、保険料が安くなると宣伝されていましたよね。
 それはまやかしです。民間保険会社は持病がある人や何度も手術をしている人、そして高齢者など、医療費が高額になる人を入れるのを渋ります。すると、そうした人は公的保険を選ぶしかない。しかし、高額の医療費を公的保険で賄うには大きな財源が必要となります。オバマは財源確保のための増税はしないと言い切ってしまった。つまり、限られた財源で多くの重病患者を抱えなくてはいけなくなる。(P.22 堤未果インタビュー)

 “KEY POINT オバマの「医療改革」はこうして“失敗”した(P,33)”で一連の流れが図解されていました。こうして、現在のアメリカが抱えている問題が、ダイナミックに描き出されています。

営利企業サステイナブルな社会

 医療だけではなく教育についての問題、さらに「食べる」ことにも困窮する人々、それらについての記事もありました。特にショッキングなのが、刑務所の運営さえも営利的観点で動きがちという記事です。
 アメリカ社会の特徴は、営利企業の活動を最大化する傾向が、極めて強いことにあると感じます。それ自体は悪い面ばかりではありません。営利企業が利益を創出するがゆえに、よりよい商品やサービスが提供され、マンハッタンのような都市が発達し、文化が創出され、人々の生活もよくなるという一面もあります。
 ただ、その恩恵を受ける一方で、営利企業の活動に寄与できない人々については、切り捨てられていく可能性があります。現在のアメリカでは、その可能性がもろに現実化されていると感じました。切り捨てられた人々は、満足な教育も受けられず、社会で活躍するどころか、生活することにも困窮します。
 あえて営利の観点から考えてみても、活躍できるチャンスを得る人が多いほど、有能な人材が社会に多く出現するはず。したがって、貧困の深刻化は、営利企業の「持続可能」「サステイナブル」な活動にとって、障害となると考えます。
 同様のことが、日本でも起こりうる可能性も踏まえ、我々はしっかり考えていきたいですね。

図解と分析

 持続可能な社会をめざすため、僕の立場として何をすべきか考えました。僕は幸いにして、満足のいく教育を受け、知的活動ができる基本能力はあります。こうして文章を読んだり書いたりできることもそのひとつですし、グラフや図解を読んだり書いたり、分析したりすることもできます。社会から切り捨てられないためには、自分の専門能力と発信能力を磨いて活かすべきと考えます。
 読み書き、すなわちメディアリテラシー、さらに問題解決能力などを習得できていないとどうなるでしょうか。現代の社会状況をみて「ものが売れないから、何もできない。」「言われたことしかできない。」という、先行きの暗い単純で発想に行き着きがちです。最近、何度かそういう人に接する機会がありました。
 この特集では、数字やグラフや図解が多用され、読み応えのあるものになっていました。それを見習って、暗い気持ちになっている人たちに明るい可能性を示し、導いていきたいというのがいまの気持ちです。