対峙されてしまうアーキテクチャ

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

NHKブックス別巻 思想地図 vol.3 特集・アーキテクチャ

 この本を買って最初に読んだのは、建築家藤村龍至氏による”グーグル的建築家像をめざしてー「批判的工学主義」の可能性”でした。これは、現代社会で建築の設計業務に向かううえで、素直で正しく、未来への希望も感じられるものに感じました。ただし、これは建築の専門書ではありません。なぜこの本に建築論が登場しているのかという点について考えたとき、より興味深く読めるものでした。

 「アーキテクチャ」には、建築、社会設計、そしてコンピュータ・システムの三つの意味がある。
 この言葉は近年、批評的な言説の焦点として急速に前景化している。わたしたちは、イデオロギーにではなく、アーキテクチャに支配された世界に生きている。したがって、必要なのは、イデオロギー批判ではなくアーキテクチャ批判である。
「特集・アーキテクチャ」に寄せて・東浩紀 より(P.6)

 どうやら、この本は建築の仕事をしている人を批判したいらしいのです。この本が最初に読者として想定しているのは、いわゆる「思想」を好む方々と思われます。すなわち人文科学系の学問に関わる人やそのファン。藤村龍至氏は、批判を受ける側の代表としての登場であり、いわばヒール役。あえて短絡的にまとめると、そういう構図といえるでしょう。そして、僕自身も批判を受ける側の人間の分類に入ります。
 建築に限らず、専門的な知識と技術を身につけて能力を発揮し、社会に貢献しようとして生きている人が、世の中にはいろいろいます。僕はいままで、それは当たり前のこととして社会に受け入れられるのだろうと漠然と考えていました。しかしながら、批判を受けてしまうというのも現実に経験しています。

 リクルートワークス研究所の白石久喜は、非正社員を対象として調査データから、一般に「フリーター」「派遣社員」などの分類で呼ばれているパートタイマーを、管理者の視点から把握するための分類している。そこでポイントとなるのは、パートタイマーに対して、一般的な人材マネジメントの手法が通じにくいということだ。
設計される意欲ー自発性を引き出すアーキテクチャ鈴木謙介 より(P.119)

 職場において、権限を得て専門知識を発揮するという「やりがいの提供」があるとして。僕のような人間にとって、それは確かに「やりがい」です。

 通常であればメンバーの自律的な行動やモチベーションの向上を促すとされる権限委譲も、パートタイマーが相手だと、「責任を押し付けられた」「私はパートだからできない」といった反発を呼び起こすことがあるのだという。
設計される意欲ー自発性を引き出すアーキテクチャ鈴木謙介 より(P.119)

 一方で、そう思う人もいるということ。身近な事例のひとつとして確かに感じます。
 僕がこれまで専門的に勉強したり実務で経験たりしてきたこと、それは確かに社会に貢献できるものだと信じています。しかしながら、いろんな場面で他の人々の考え方とずれたりしています。克服するには、常に能力を磨いて発揮し、実績を重ねないといけない。また、その内容を理解できる言葉として周囲に働きかけ続けないといけないと感じます。
 以上が、あくまで「自分の立場」として読んだ感想です。人文科学的な論考とかはあえて考えずに書きました。
 『思想地図vol.3』は、僕がいままであまり読んでいなかったタイプの本です。社会の多様なあり方を見せてくれるものとして、実に興味深いものでした。