戦国時代の経済活動とビジョン

天地人〈下〉

天地人〈下〉

 引き続き、現代社会に通じる場面が多く登場します。下巻前半では真田幸村が登場し、直江兼続から「義」と「利」についてじっくり話し合う場面があります。戦国時代は、現代でいう成果主義的な考え方が人々の間で根付いており、他の人を出し抜いてでも自分の「利」を守ろうとする人が多い。そこで、人をまとめるビジョンとして示されるのが「義」です。
 「利」については、経済活動を通して人々を豊かにしようとする上杉家の取り組みが紹介されます。米や金銀の生産により、上杉家の経済は裕福です。現実の問題として、こうした生産活動なくして人々の暮らしは成り立ちません。財源が確保できなければ、崇高なビジョンも絵に描いた餅です。だから、「義」と「経済」の両立に取り組みます。 関ヶ原以降、上杉家領地の石高がそれまでの4分の1となり、経済的にも政治的にも難しい立場に立たされますが。そこで様々な工夫を行って経済の建て直しを行い、人員整理を行うことなく上杉家を存続させました。今の日本に求められるのも、こうした工夫による建て直しなのだと思います。
 「ものにとらわれず、自分の信じた道をゆく。大事なのは、直江家でも、上杉家でもない。天に恥じぬ生き方をすることだ」という言葉がありました。この物語の登場人物に共通するのは、直江兼続石田三成上杉景勝にも徳川家康真田幸村も、自分が理想とするビジョンを実現しようと努力していることです。それぞれの理想はときにすれ違ってしまい、失敗や悲劇を招くこともありますが、天に恥じぬ生き方をしている登場人物たちが互いに影響を及ぼしあった結果、日本全体が平和で安定した社会へと変化し、最終的に全体最適化されていったでしょう。
 人々が安心して暮らせる社会を実現するのは、ストレートに実現するものではないのでしょう。ひとりの力で社会を変えることはできなくても、人それぞれが天に恥じぬ生き方をすることによって、社会が良い方向に向かうのだと思います。