人類学者と実験者

 僕の社会人としての興味は、実務的な方面にほぼ100%向いていたと思います。目の前の案件を処理することに追われて、視野が狭かったかもしれません。
 業務のイノベーションとサッカー - FDmountwill_millsの日記
 上記のリンクで紹介したIDEOの本には、イノベーションをおこす人間のタイプとして、情報収集をするキャラクターが挙げられており、人類学者と実験者(および、花粉の運び手)と呼ばれていました。その人類学者と実験者の視点として、以下2冊読みました。

生きる意味 (岩波新書)

生きる意味 (岩波新書)

 文化人類学者です。以前に「アサーティブ2 - FDmountwill_millsの日記」にて紹介した『かけがえのない人間』と要点は同じでした。著者自身の人生経験にからめてその論を展開しているのが『かけがえのない人間』とすれば、社会の出来事にからめて論を展開しているのがこの『生きる意味』です。
 経済のグローバル化や、医療におけるQOL(クオリティオブライフ)など現代社会の状況を紹介しつつ、生きる意味について解き明かしていきます。社会の出来事や人間の行動について情報収集したり、説得力のある自説を論理的に展開したりするうえで、参考にしたい点がいろいろあります。また、熱い気持ちが伝わる言葉遣いも好きです。
大人の時間はなぜ短いのか  (集英社新書)

大人の時間はなぜ短いのか (集英社新書)

 実験心理学者の一川誠先生は、学生時代の先生でした。「一川誠先生 NHK爆笑問題ニッポンの教養 - FDmountwill_millsの日記」および「時間とストレス - FDmountwill_millsの日記」にて、テレビに出演されたときの感想を書きました。
 人間の感覚の仕組み、錯視図形にみられる知覚の特徴、それに対する実験の結果などが紹介されています。実験において、最初に立てた仮説と違う結果が出ることもあって、その繰り返しでよ理解が深まるそうです。この本には身近でもできそうな実験が多く紹介されていて、興味深く読めます。錯視については、本の図表で実感することができます。何かを明らかにするための実験が、工夫次第でいろいろ行えるものだと思えました
 そして、ここでも現代社会の問題に対する考察が述べられています。移ろいやすく不確かな反応を示す人間の知覚能力に対して、ひたすら効率的な業務を求めることは、ストレスかもしれない。そのように理解しました。
 時間研究所の研究者の方々は、JR西日本福知山線脱線事故が起きたとき、大変な責任感を感じたそうです。<研究者の自意識過剰かもしれないが、人間の時間的制約について、もっと世間につながるような情報発信ができていれば、このような事故を防ぐことができたかもしれない>という記述があります。実務的な社会に携わる僕の立場からは、先生方の研究成果や思いをしっかりと受け止めて、自分なりの行動につなげていきたいです。
 人間の行動に対する理解や、工夫のうえで行った実験の結果というものは、人々の間で共有しやすいものです。それを積み重ねることで、自分がよりよい考えを持つことができたり、よりうまく人に考えを伝えられたり、考え方を共有してチームワークを生み出したり、いろんな手助けになるような気がします。