アサーティブ2

かけがえのない人間 (講談社現代新書)

かけがえのない人間 (講談社現代新書)

プロローグ 交換可能でない「私」、第一章 ダライラマの愛と思いやり、第二章 私たちは使い捨てじゃない、第三章 評価が、生きることの目標か、第四章 ネガティブなことに大きな価値がある、第五章 ネガティブなことに大きな価値がある。

 現代の社会では、低賃金の非正規雇用労働者やリストラなどが起こっているという問題が、本のなかで繰り返し登場します。そういう状況に対し、個人的にも怒りを感じることが最近多かったのですが、怒りについて第一章のダライラマの愛と思いやりに登場する言葉が印象に残りました。

かけがえのない、尊重されるべき人間が危険に瀕していたり、苦しんでいたりするということに対して、どうしてそんなことが起きるのだと感じる怒り〜

 そういう怒りをもって、自分の行動に反映してゆくのは、悪いことではないという主張に安心しました。
 第三章から第四章にかけて、著者の文体が崩れてきます。上田紀行さんは大学受験国語出題数で一番多かったそうで、とても整った文体をしています。それがこの辺りで別人のように崩壊し、自分の人生の告白がはじまります。格好のよい自叙伝ではなく、人生で感じた悩みをそのまま書きなぐったような印象で、2ちゃんねるや匿名掲示板で見かけたような文体でした。あとがきによると、自身の人生について書くことは、著者自身にとってさえ予想外の出来事だったそうです。それは、かけがえのない人間という考えを記すまでの経緯として説得力となっています。
 全体を通して、かけがえのない人間として自分を取り戻してほしいというメッセージとして深く印象に残りました。

 余談として、アサーティブ - FDmountwill_millsの日記にて、『断る力』の書評を書きましたが、著者が一番伝えようとしている内容が似ていると感じました。表紙オビの言葉も少し似ています。言いなりにならない、かけがえのない人間、そして人生の変化。ただ、伝えたい内容は似ていても、切り口が全く異なるという印象があります。勝間和代さんが、挑発めいた言葉を本のタイトルに挙げて、本の内容で徐々に優しい思いやりを見せてくるのに対し、上田紀行さんは最初は優しい印象の言葉で徐々に強烈な主張をしてきます。この点においても、人それぞれの人生体験や得意分野というのは、それぞれ違った価値があって、かけがえのないものなのだと改めて思います。