スティーブ・ジョブズのスピーチから―苦悩と失敗と志と


 スティーブ・ジョブズのスピーチ。感動的ですね。このスピーチは最近では高校英語の教材に登場することも多いそうです。
 スティーブ・ジョブズについて書かれた本『スティーブ・ジョブズ-偶像復活*1が好きです。500ページかけて描き出された、重厚な伝記です。時間があるときにゆっくり読むとやる気が出てきます。アップルはグーグルのように戦略*2などをオープンに発表する社風とは違い、エピソードを発表する機会がやや少ないため、アップルやジョブズを扱った本は題材不足で面白いものがやや少ない気がしますけど、この伝記は読み応えがありました。原注のページには、取材協力が得られない人が多かったこと―ジョブズ本人など―について触れており、苦労が偲ばれます。だから、エピソードがどれだけ真相に迫っているか疑問も少しあるのですけど、読み物としてはかなり面白かったです。
 ジョブズはスピーチのなかで、「大学を中退」「アップルをクビ」「癌」などの体験について触れています。中退やクビや病気という苦悩は、もちろん明るい話ではありません。また、ジョブズは失敗も多く経験したそうです。仲間を傷つけるような行動をしたり、無理な計画を推し進めたり、ジョブズに非があると考えて仕方ないものもあります。実際に、人から非難をされることも数多くありました。そんなジョブズが、様々な人生経験を経て変化してゆく様子も描かれています。その内容を頭に置いてからスピーチを聞くと、より感動的です。
 ピクサーについても多くの記述があります。表紙カバーには、ジョブズを「ミスター・インクレディブル」に例えた箇所があります。ピクサーの映画「ミスター・インクレティブル」や「カーズ」「レミーのおいしいレストラン」を見ていて気づいたのですが、それらには共通するプロットがあります。主人公は人を圧倒するようなすごい才能をひとつ持っているのですが、物語の前半では独り善がりな欠点があって周りの人が少々迷惑します。物語の後半ではそれを克服してより強力に才能を発揮するようになります。これはジョブズの人生と重なる印象を受けました。
 余談ですが、ピクサーの技術や経緯については『ピクサー・ショート・フィルム&ピクサー・ストーリー 完全保存版 [DVD]*3 *4ピクサー・ストーリーも面白かったです。

新しいことに挑戦し成し遂げる志

 ジョブズのような人でも、志をもってひとつの仕事を成し遂げるときには、様々な挫折や非難がありました。それを思うと、自分は人から非難されて苦労していた、などという弱音はなかなか吐けなくなります。新しいことをやらなければならない状況、いままでやってきた通りのやり方が通用しない状況において、トライを成功させるまでの間には、失敗というリスクは避けられません。
 人が幸せに生きていくためには、新しいことを追求することも必要と考えます。道順を覚えることに絶対的な自信をもつ運転手がいたとして、それ以外の能力を追求することを怠っていたとしたら、カーナビの出現によって道順記憶の価値が下がるという環境においてはプライドが傷つき、平静でいられなくなります*5
 また、生物の性質として、生き残るためには新しい環境に対応する必要があり、新しいことへの追求は自然な行動と考えます。恐竜は強固な肉体と生命力を持っていたにもかかわらず滅びてしまいました。人間の脳は新しいことへの探求を行って行動を変化する―可塑性―の部分が大きいそうです。その意味でも、人が新しいことに挑戦することは理にかなっているのではないでしょうか。
 何か新しいことをはじめるとき、人から非難を受けるのではないかと心配だ、という理由で興味のあることへの追求をやめてしまったとしたら、非難を受けるよりもさらに辛い体験になると考えます。これは人から非難されるようなことをしてよいという話ではないのですけど、人は非難に負けずに行動することが可能だから、勇気をもって行動したいと考えます。

感動した後は、プレゼンの術に踏み込んで分析してみるのも良い感じ

 ジョブズのスピーチは、感動的な話の内容だけでなく、いわゆるプレゼン術の参考にするものとしても得るものが多いです。プレゼン術については、はてなブックマークニュースの記事が参考になります。