喧嘩上等!! ビジネスVS精神科

勝間さん、努力で幸せになれますか

勝間さん、努力で幸せになれますか

ゼロイチ思考、多様性

 効率をよくして、努力をすれば競争に勝ち、成功を収めることがそれほどすばらしいことなのか。もし、それのみを善しとするような価値観を内面化した読者が日本のマジョリティーになれば、この10年で世界中に広がった「勝ちか、負けか」の市場万能主義に基づく多様性を欠いた社会が、いよいよ完成してしまうのではないか。(P.16 はじめに 香山リカ

 香山さんが危惧していることは、明確でした。個人的にも、多様性というのは重要だと思います。僕は以前、建築家ベンチューリの『建築の多様性と対立性』という本で感銘を受けました。本の内容はあまり覚えていないですが、多様性という言葉についての感銘ははっきり残っています。近年では、多様性ということが、以前に比べてあまり語られなくなっていると思います。
 多様性を認める、価値観を相対化する。ひらたくいえば、<あんな考えもあっていいし、こんな考えもあっていい>ということについて。その思想には弱点もあると考えます。価値観の相対化が行き着くところは、極端にいえば<テロでも失業でも、なにもかもあっていい>ということになりがちです。しかしながら、テロで死ぬのは誰にとっても嫌なこと。収入が少なくて、生活がうまくいかないのは誰にとっても嫌なこと。だから、仕事について「努力」で効率よくしよう。と考えることは自然ではないでしょうか。<これが正しい>ということをはっきりと言わなければならない場面は、現実の生活のなかにはたくさんあります。
 相対化の考えについては、プラスの面もあります。<これが正しい>と誰かが言うこと、それだけを鵜呑みにしないこと。柔軟な考え方ができることです。適切に多様性を認めていきたいものですね。

香山:100か0、オールグッドかオールバッド。つまり白黒思考でしかものごとを捉えられないという、スプリッティング思考です。
勝間:「ゼロイチ思考」と呼ばれているようなことですね。私もその危険性は指摘しています。
香山:その心理的傾向でいくと、感情面でも、大好きか大嫌いかという二極化したポジションしかとれません。 (P.29-30 <勝間和代>は成功者のアイコンか より)

 カッコつきの<勝間和代>アイコンには、効率のみを徹底的に追求するイメージがあるのかもしれません。勝間さん自身もそんなことがよいとは考えていないようです。

仕事の成果

香山:私と勝間さんの最大の違いは、前提としている人間モデルの違いという気がしています。勝間さんは、そうできる環境さえ整えてあげれば、1日8時間、月曜から金曜まで働いて、さらにそれにプラスして自分を向上させる努力ができる人、を人間の標準モデルとして考えていらっしゃいますよね。私は、それが必ずしも標準モデルに思えない。
勝間:でも、そうしないと、社会がサステイナブルにならないですよね。(P.90 仕事で幸せは得られるか より)

 長年仕事が下手で知識が不足して、「遊軍」のような場所に追いやられている人も現実にいますね。詳細に毎日を見ていますと、内容は軽微なものがほとんど。昔のテレビドラマの「ショムニ」のような人たちが職場にいました。そこの年配の人たちが業務の目標に挙げることは、「わたしは、あいさつができていないので、きちんとあいさつをしたいです」。「仕事とは紙に書かれたこと、言われたことだけをやっていればいいです。」ということでした。僕としては、そういう人にも毎日あいさつして、仕事をどうすればよいかはっきり教えるようにしてきました。僕の未熟さもあったとは思いますが、教える側としての体験はなかなか大変でした。
 香山さんの言う「遊軍」の人も職場の潤滑油になり得るとは思います。ショムニのように予想外の活躍をすることも、ドラマのストーリーとしては美談になりそうです。世の中、本当に努力ができない人も少数いるのだとは思います。しかし、仕事をどうやるかわかっていないだけ人は、本当に努力できない人でしょうか。僕が教えた人たちは、長い時間はかかりましたが、少しづつ理解はしてくれていたと思います。
 現実の社会状況では、そうせざるを得ない。サステイナブルになっていかないとは思います。〈そういう人もいていい〉では、現実に通用しない。<仕事を効率的にやることが正しい>と言い続けなければならない。そんな場面、立場の人もいるのです。