ピータードラッカーだけでは濃すぎる

 ピータードラッカーでも何でもそうですが、いわゆるビジネス書の名著とよばれるものは共通した弱点があるように思います。それは、たいてい上から目線だということ。体験上思うことは、ピータードラッカーの言うことを、そのまま真に受けて行動に反映させるだけでは、うまくいかない場合も多いということです。なぜなら、ピータードラッカーは立派な経済学者だからです。それと違った立場にある大多数の人は、その言葉をそのまま真似て、立派なことを言っているだけでは、うまく動いてこないということです。ピータードラッカーの考え方自体が悪いわけではないのですが、自分の立場で活用するには工夫が必要と感じています。
 5〜6年前ぐらいから、ビジネス書ベストセラーの傾向が変わってきたように思うのですね。それまで立派な肩書きの学者や経営者が書いた上から目線の本が主流だったのですが、くだけた言葉遣いのものが増えてきました。本音を言うと、この手の本に対して、内容が軽すぎるとかエッセンスが薄められているとか、悪いイメージをもつことも多かったです。でも、どうしてもうまくいかない感じがして仕方ないと感じているとき、この手の本をよく読んできました。その場を乗り切るパワーとして、十分に効きます。また、上から目線でなく、くだけた言葉に置き換える方法の参考としても役立ちます。そして、売れているものには確かに何らかの魅力が確かにあると思えます。
 NHK教育仕事学のすすめに影響うけて、最近改めてピータードラッカーに興味が出てきたのですが、どうもそれだけだとバランス感覚を欠いてしまうしまう気がしたのでこの本を手に取りました。

非常識な成功法則―お金と自由をもたらす8つの習慣

非常識な成功法則―お金と自由をもたらす8つの習慣

 こういうやり方も確かにあるなと思いますし、くだけた言葉遣いによって考えていることを伝える方法としても、すごく参考になる気がします。「なぜ成功者のアドバイスは、障害になるのか(P.19)」「なぜ通常の成功法則はうまくいかないのか(P.104)」。といった見出しが目をひきます。個人的には、そういうところは多少耳が痛い。反省。
 こんなところに注目するのは変わっているかもしれませんが、奥付の刷数が印象に残りました。僕の手元にあるのは、2002年6月29日初版、2009年33刷発行。長年根強い人気があるようです。古本屋の100円や50円のコーナーにある昔のベストセラー本と、この本とはやはりひと味違います。

知識労働社会

 これも内容盛りだくさんです。主な内容は20世紀の社会と、それに至るまでの歴史ということでしょうか。もちろんそれに対する考察が入ります。いわゆる歴史書としては読みにくいかもしれませんので、基本的な歴史の出来事についてはあらかじめ理解しておかないと理解が追いつかないと思います。まずは目次の引用。本当の目次は、これの下に章のパラグラフがつきます。

  • Part1 激動の転換期にある社会
  • Part2 断絶後の経済
  • Part3 模索する政治
  • Part4 問われる知識と教育

 ドラッカーがいうところの「断絶」「転換」のなかで最も重要なのが、「肉体労働者」→「知識労働者」ということだと思います。「プロフェッショナルの条件」*1の前半にも出てきたことですが、ここでは歴史を俯瞰した立場から、多くの事例を交えてこのことが述べられます。
 かつて、企業は言うことだけ聞いて従わせるようなやり方で、従業員や下請けに仕事をさせていました。知識を扱う人は限られていて、仕事の内容について考えなくてよい人がたくさんいたのです。その時代では、そのやり方で企業が利益を得て従業員に給料を支払うことができるからです。それが変化して知識、教育が重要だという社会へ転換し、言われたとおりに肉体を活用して労働していた社会とは断絶するということです。Part4ではそれを受けて、重要性を増した知識に関わる教育の問題を取り上げます。
 一部の企業においては断絶する前の社会のやり方を押し通そうとして、結果的に反社会的な行動をとっているのだと思います。業務の進め方をカイゼンすることもなく、偽装行為などの異常に気づいた黙ってしまうということも起こり得ます。従業員の方から余計なことは言わないと心に誓っている状況も散見されます。従業員は、結果的に肉体労働的な機械操作や指示通り作図する程度のスキルしか得られない。業務が滞ると、安い賃金で技能の低い非正規雇用社員を大量に雇って酷使し、利益が出にくくなっている問題をその場しのぎで解決しようとしました。また、若い世代の正規雇用従業員も同様に知的労働の機会を与えられずに酷使されています。本来ならば、業務のやり方を断絶後の社会に合う形にイノベートするという、抜本的な解決が必要でした。彼らは断絶前の社会のやり方を強制的に押し付けられているのです。
 個人的な体験では、大学院教育の機会や知識労働の機会を得て活躍できたことを幸運と感じています。その立場から言うのも何ですが、知識労働の機会が完全に失われている職場というのも、世の中にはないように思います。目の前の問題を知的に解決する方法を、どんな形ででも実行していけば、それが財産になり得ると思います。本を読んだりすることも、十分役立つことのひとつだったと感じています。