21世紀のピータードラッカー

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

 ピータードラッカーの本は内容が濃く感じるので、まず目次を挙げてからでないと何を言いたいのかまとめることも難しいと感じてしまいます。本当の目次は部の下に章のパラグラフがつきます。

第1部 迫りくるネクスソサエティ、第2部 IT社会のゆくえ、第3部 ビジネス・チャンス、第4部 社会か、経済か

 以前に読んだドラッカーの本と違うのは、時代が近いために落ち着いて読んでいられない気持ちになったことです。いま、自分を取り巻いている社会の環境と一致しすぎるのです。
 第1部第2章には、「社会を変える少子高齢化」という見出しがあります。僕が大学院で研究テーマにしていたのは、ユニバーサルデザインでした。*1当時、少子高齢化のうえで雇用が流動することを踏まえて、すべての人が円滑に生活を営なむことができるための研究ということが、僕の原動力になっていました。「社会の全体最適という未来 - FDmountwill_millsの日記」を書いたように、今でもこうしたテーマに関しては、理工系の切り口だろうと経済系の切り口だろうと、思わず熱くなってしまいます。
 第1部第5章には「企業のかたちが変わる」という見出しがつけられています。「まだインターネットには、探したいものをすぐに見つけてくれる電話帳のようなものは現れていない。クリックして探し回らないといけない。」と述べられていますが、今ではだいぶ変わったと思います。たとえば、はてなブックマークで数を稼いだインターネット記事は、探し回るまでもなくホットエントリーとして目立ってきます。はてなの機能では、ユーザーお気に入り機能で自分の興味に近いものをさらに絞り込むことができます。RSS配信を受けてまとめてくれるグーグルリーダーやはてなRSSなども便利です。この分野に関しては、ドラッカーがこの本にまとめたときよりも、さらにネクストへ向かっています。
 こうした、様々な観点からの考察が続くのですが、以前の本から引き続き一貫していることは、知識労働についてです。知識労働者の重要性がますます重大になり、製造業の雇用が減少します。知識を活用せずに、指示されたまま図面を作図したり機械を動かしたりする労働は、急激に減少するということだと、改めて理解しました。ひとつの例として挙げられていたことは、コンピュータの技術によって、以前では考えられない早さで建築設計の図面ができあがることです。それは、コールハースのドキュメント*2で見られた場面とも一致しますし、僕自身がいま実務で取り組んでいる世界でもあります。汎用CADソフトを、製図版の延長であるかのように使用し、工夫を生み出す知識をもたない作図担当者を大量に雇って図面を処理するという方法は、今の時代には通用しません。エクセルの集計や進捗管理などであれば、数字を書き込んで単純な計算をするだけの処理を、知識のない労働者を大量に雇って行うというやり方では、通用しないということです。個人的な体験を思えば、長年にわたって工夫や知識に重点を置いた仕事をしてきてよかったと思えました。
 コンピュータの利用について面白いと思えたのは、第2部第3章の「コンピュータリテラシーは当たり前」というところでした。電話が登場した時代に、電話の使用方法に関するセミナーを経営者向けに行なおうとしたら、その反応は冷ややかだったというエピソードがあります。その頃の電話は、下位の労働者が使用するものだと思われていたからです。今では、電話の利用方法がわからないのであれば、経営者どころかまともな人間としての扱いすら受けないでしょう。その記述は痛快でした。会社で地位の高い人が、コンピュータの利用方法を知らないことを堂々と公言していて、それでも偉そうにしていた時代も確かにありました。今後はそれも笑い話になっていくのかもしれません。